居抜き物件とは? メリット・デメリット、借りる前の注意点をまとめて解説
オフィスの移転には多額の費用が発生しますが、居抜き物件であれば移転コストを節約できます。ただ、居抜き物件はメリットばかりでなく、デメリットもあるため理解したうえで検討を進めなくてはなりません。本記事では、居抜き物件の概要やメリット・デメリット、借りる前の注意点を解説します。
居抜き物件とは?
居抜きとは、前入居者が施した内装や導入設備をそのまま引き継ぐ形で行われる不動産取引です。このような状態で取り引きされる不動産物件が居抜き物件と呼ばれます。オフィスや飲食店、工場などの居抜き物件がよく取り扱われています。
居抜き物件の需要が高まった理由として、新型コロナウイルスの感染拡大に伴うリモートワークの増加が挙げられます。リモートワークへの移行に伴いオフィスを縮小しようとする企業が増え、移転コストを抑えられる居抜き物件に注目が集まり始めました。
居抜き物件のメリット
居抜き物件が人気なのは、多大なメリットがあるためです。入居時においては、初期費用を抑えられるうえに移転も短期間で実現でき、退去時も原状回復義務を免れられる可能性があります。
入居時のメリット
賃貸物件への入居時にはさまざまなコストが発生します。オフィスや店舗として利用するケースであれば、内装工事や設備の導入、什器の設置などのコストが発生しますが、居抜きであればこれらの初期費用を大幅にカットできます。
初期費用の節約ができる
初期費用を節約できる理由は、内装工事が不要であるためです。通常、内装造作などが施されていないまっさらな状態に戻された事業用物件へ入居する際には、内装工事を行わなくてはなりません。一方、居抜きであれば内装工事が終わった状態で借りられるため、工事が不要です。
また、エアコンや照明などの設備もそのまま残されていることが多いため、これらの設備費用も節約できます。ただ、設備に関しては使えない可能性もあるため、事前のチェックが欠かせません。
人件費も節約できます。オフィスとして利用する場合、デスクやチェアが残されていれば、新たに導入する必要がありません。人を雇って搬入出する必要がなく、人件費を削減できます。
短期間で移転できる
通常、オフィス移転には多大な手間と労力が発生します。内装工事会社の選定や見積もりの依頼、現地での打ち合わせ、新たな設備や什器の選定、発注などの工数が発生します。
上記のような手間が発生するため、場合によっては移転に数ヶ月を要するといったケースも珍しくありません。一方、居抜きであれば本来必要な工数を大幅にカットでき、短期間で移転が可能です。また、移転計画を実行する担当者の負担軽減にもつながります。
退去時のメリット 出費を軽減できる可能性も
事業用の賃貸物件から退去する際には、契約に基づき原状回復しなくてはなりません。基本的には、借主が施した造作物を取り払い、入居時の状態に戻しますが、その際の工事費用が発生します。
オーナーが原状回復義務の引き継ぎを認めてくれるのなら、原状回復費用を削減できます。そのままの状態で退去できるため余計な費用がかかりません。すべては契約次第なので、事前の確認が必須です。
また、退去日が月をまたぐようなケースでは、1月分の賃料を支払わなくてはなりませんが、新たな入居者が見つかり月をまたぐ前に居抜きで明け渡しが出来れば、その心配もありません。次の入居者を見つけ出すことができるかにもよりますが、月をまたぐ前に明け渡し日を設定できる可能性も高まります。
居抜き物件のデメリット
さまざまなメリットがある居抜き物件ですが、デメリットがまったくないわけではありません。入居時と退去時それぞれでデメリットがあるため、把握しておく必要があります。
入居時のデメリット
居抜き物件は、内装やレイアウトの変更をしにくいというデメリットがあります。また、設備が自社に合わず新たに買い替えるとなると、そのための費用が発生します。
内装やレイアウトを変更しにくい
前入居者が採用していた内装やレイアウトをそのまま使用するため、場合によっては使い勝手が悪いと感じたり、不満を抱いたりする可能性があります。たとえば、オフィスとして使いたいのに壁紙が派手すぎる、不要な間仕切りがあるといったケースが考えられます。
このような場合、そのまま我慢して使用するか、もしくは工事を行い改善するかの2通りです。後者の場合、既存の内装やレイアウトを解体し、そのうえで新たに施工してもらう必要があるため、多額の出費が発生しかねません。
そもそも、内装やレイアウト変更の工事を、オーナーや管理会社が認めていない可能性もあります。使い勝手の悪いオフィスで仕事をしなくてはならなくなるおそれがあるため、内装やレイアウトを変更したいのならそれが可能かどうかを事前に確認しておきましょう。
設備を買い替える場合はコストがかかる
既存の設備に不満がある、不具合が発生するため買い替えたい、といった場合にはコストが発生します。設備の種類によっては、高額な費用が発生する可能性もあるため注意が必要です。
また、基本的に賃貸物件の設備はオーナーに所有権があります。そのため、たとえばエアコンに不満があるので買い替えたい、となっても借主が勝手に撤去や売却はできません。
一方、設備が故障したときの修理費用は、原則オーナー負担になります。ただ、物件の設備として契約書に記載されていなければならないため、契約時の確認が必須です。
退去時のデメリット
退去時のデメリットとして、原状回復義務を引き継ぐ、解約予告期間が長いなどが挙げられます。両方ではなく、どちらかひとつのデメリットを受けるおそれがあるため注意しましょう。
原状回復義務を引き継ぐ
前入居者が免れていた原状回復義務を、新たな入居者が引き継ぎます。通常、事務所物件は 内装造作などを施していない入居した時点と同じ状態に戻して退去しますが、前入居者はそれをせず新入居者に引き継いでいるため、代わりにその義務を果たさなくてはなりません。
どこまで原状回復が必要になるかはケースバイケースですが、スケルトン状態まで戻すのなら相当な出費を覚悟しなくてはなりません。間仕切りやフロアカーペット、クロス、天井ボードなども撤去して、コンクリート下地が剥き出しの状態に戻すとなれば、大掛かりな解体工事が必要です。
ただ、前入居者と同様に居抜きで退去できるのなら、原状回復義務が生じません。そのまま、次の入居者に引き継げます。将来的に、再度移転する可能性があるのなら、原状回復義務があるのかどうかを確認し、見積もりも作成してもらうとよいでしょう。
解約予告期間が長い
居抜きで退去するケースでは、解約予告期間が長くなる傾向があります。オーナーは新たに居抜きで入居してくれる人や企業を探す必要があるためです。
居抜き物件は、内装やレイアウト、設備などが前入居者の意向に沿ったものとなっているため、マッチする入居者を見つけるのに時間がかかります。そのため、そのままの状態で退去したいのなら、一般的に半年以上前から解約予告をしなくてはなりません。
居抜き物件を借りる前の注意点
居抜き物件を借りる際には、備品の所有者や動作を確認し、設備の修理責任範囲も明確にする必要があります。また、口約束ではあとから「言った言わない」のトラブルに発展するおそれがあるため、書面を交わしておく必要があります。
備品の所有者や動作を確認する
オーナーが設置した備品と思っていたものが、実はリース品である可能性があります。仮に、リース契約中の設備が含まれていたとなると、リース料金の支払いを求められるため、事前の確認が必須です。
また、設備が故障して使えない、不具合が発生しているといったケースも考えられます。たとえば、エアコンが稼働しない、ダウンライトが点灯しない、換気扇から大きな異音がするなどが該当します。
移転したあとで故障や不具合に気づくと、修理の必要性が生じます。給湯室の換気扇が壊れている程度であれば業務に大きな支障はないでしょうが、夏場にエアコンが使えないとなると業務効率にも影響を及ぼすでしょう。
移転後、すぐ業務を開始できるよう、事前に設備の動作確認をしておきましょう。故障や不具合があるのなら、移転する前に改善しておけば安心です。
設備の修理責任範囲を明確にする
借主が修理費用を負担しなければならない設備を明確にしておく必要があります。これを明確にしていないと、いざ設備が故障したときオーナーではなく借主が費用を負担する羽目になるおそれがあります。口頭ではなく書面で明らかにしておきましょう。
瑕疵担保責任の確認も必要です。契約時には把握していなかった瑕疵があとから見つかった場合、オーナーが責任をもって対処してくれるかどうかを要確認です。
居抜きに関連する用語
居抜き物件に興味をもち調べていると、これまで聞いたことがないさまざまな用語に遭遇します。居抜きに関連する用語としては、逆居抜き交渉や原状回復義務、解約予告期間、造作などがあります。
逆居抜き交渉
逆居抜き交渉とは、他社が使用中の物件を居抜き状態で譲ってもらえないかと交渉することです。居抜き交渉の対義語ではありません。
たとえば、どうしてもオフィスを構えたい場所に、よその企業が入っているとしましょう。人気の高いエリアやビルであれば、退去する企業も少ないと考えられるため、待つのは現実的ではありません。
このようなときに行うのが逆居抜き交渉です。たとえば、業績が著しく悪化し廃業を検討している、といった企業であれば、交渉のテーブルについてくれる可能性はあるでしょう。また、たまたま別の物件へ移転を考えている、といったことも可能性としてはあります。
なお、このような逆居抜き交渉を専門とする業者もいます。希望する物件はすでに他社が利用している、といった場合には、専門業者への相談も検討してみるとよいでしょう。
原状回復義務
原状回復義務とは、退去時に物件を借りた際の状態に戻すことです。たとえば、スケルトン状態で借りた物件に原状回復義務があるのなら、スケルトン状態に戻して返さなくてはなりません。
実際のところ、どこまで原状回復するかは契約内容によって異なります。そのため、契約時には原状回復の範囲を確認しなくてはなりません。
なお、事務所やオフィス物件として借りる場合、事務所としての機能を有する物件として貸し出されるのが一般的です。具体的には、壁や天井、空調、トイレ、給湯器などが設置された状態です。この場合の原状回復は、上記のような借りたときの状態まで戻す義務が生じます。
解約予告期間
解約予告期間とは、賃貸契約の解約をオーナーや管理会社に通知しなければいけない期間です。たとえば、期間が3ヶ月と定められているのなら、退去予定日の3ヶ月前にはオーナーや管理会社にその旨を伝えなくてはなりません。
一般的な賃貸住宅では、1ヶ月の期間を設定しているケースがほとんどで、オフィスなど事業用物件は6ヶ月の期間が多く見受けられます。なお、居抜き物件の場合は、オーナーが早い段階から新たな入居者を探す必要があるため、6ヶ月以上の期間を設けるケースがほとんどです。
造作(ぞうさく)
造作とは、家の建築や内装工事などを指しますが、不動産用語では意味が異なります。不動産用語では、入居者が物件に新しく取りつけた造作物のことを指します。たとえば、新たに設置した間仕切りや水道設備、カウンターなどが該当します。
さらに、関連する用語として造作買取請求権が挙げられます。これは、借主が貸主に対し、造作物の買い取りを請求する権利です。居抜きで物件から退去する際には、造作買取請求権を行使します。
居抜き物件を借りる際には、そのメリットを最大化するとともに、デメリットへの対策を考えておくことが大切です。自社の希望に合った物件を探し出し、スムーズに移転することができれば、事業の効率化にもつながります。