造作譲渡契約書とは? 居抜き契約での重要性や内容について解説
テレワークの導入が加速したことにより、オフィス選びにも変化が訪れています。近年、オフィスの最適化を目指して、移転・新設時に居抜き物件を検討する企業が増えました。この記事では、居抜き物件の契約時に必要な造作譲渡契約書の重要性、記載すべき項目、注意点について詳しく解説します。
居抜き物件への入居に必要な造作譲渡契約書とは?
居抜き物件に入居する際は、物件のオーナーとの賃貸借契約だけでなく、前の借主との造作譲渡契約を結ぶ必要があります。居抜き物件とは、前の借主が使っていた空調などの設備や内装が残ったままの賃貸物件のことです。
居抜き物件の活用は、オフィスを移転・新設する際の初期費用を抑えられるほか、業務開始までの期間が短縮できるのもメリットです。設備や内装、備品に費用をかけずそのまま物件を使用できます。
造作譲渡契約は、前の借主が残していった設備や内装などの造作物を譲渡するための契約です。造作を譲渡する側と、受け取る側の双方が合意した内容を明確に残すことを目的としています。
造作譲渡契約書が必要な理由と重要性
造作譲渡契約書は、原状回復義務の有無や譲渡価格・譲渡項目、契約不適合責任といった契約内容を明確にする書類です。契約内容を書面に残しておくことで、譲渡後にトラブルが発生した際、責任の所在を巡ってトラブルになる事態を防止できます。
また、前の借主が設備を譲渡するといった性質上、経理処理の面でも重要な役割を果たします。
原状回復義務の有無を明確にするため
居抜きではない通常の賃貸物件を契約する際、借主は入居時に設備や内装を撤去したスケルトンの状態の物件を借り、自社で設備や内装を設置します。その場合、退去時には原状回復が求められるため、内装などはすべて撤去してスケルトン状態に戻して物件を返却する必要があります。
原状回復とは、物件の設備や内装のすべてを撤去して骨組みだけの状態にすることです。ただし、居抜き物件として退去する契約を交わした場合には、それまでの借主が原状回復を負う義務はありません。原状回復義務は、その後に居抜きで入居する新しい借主が引き継ぐものとされています。
造作譲渡契約書には、退去時に必要な原状回復義務を明確にするため、内装や設備をどこまで撤去しなければならないかを明記することも可能です。撤去範囲を明文化しておけば、原状回復にかかる費用を事前に予測できます。
また、居抜き物件の場合には、自社が入居する前のスケルトン状態が把握できないため、原状回復の内容を造作譲渡契約書に記載することで退去時のトラブル防止につながります。
譲渡価格・譲渡項目を明確にするため
造作譲渡契約において、譲渡する造作をまとめた書類が「譲渡項目書」です。譲渡項目書の作成では、現在オフィス内にある設備や内装のうち、無償譲渡する造作物と金額が設定された有償譲渡の造作物、譲渡しない造作物を明記しなければなりません。
不要な造作物が譲渡された場合、想定外の処分費用が発生するケースもあるため注意が必要です。契約時、譲渡項目書の作成により不要な造作物の有無が分かれば、引き渡し後のトラブル防止に役立ちます。また、造作物の所有権を詳しく把握するためにも、譲渡項目書の作成が欠かせません。
万が一、支払い期日や引き渡し期日までに履行が間に合わなかった場合に備えて、期日を過ぎた場合に適用される契約解除条件や、キャンセルになったときのキャンセル料も定めておくようにしましょう。
契約不適合責任を明確にするため
譲渡された設備などに不具合が見つかり使えなかった場合や、契約に合わない問題が発生したときは、売主が責任を取らなければならないと民法により定められています。2020年4月に民法が改正される以前、責任を問えるのは売主が気がついていない隠れた欠陥とされてきました。
しかし、民法改正後の「契約不適合責任」では、売主に責任を求める対象が契約内容に適合しないものと変更されています。つまり、契約内容に適合しないものはすべて売主側の責任として認められます。
そのため、使用できない設備や性能が不足しているものなど、契約内容に合わないものが譲渡された場合、責任の所在は売主側にあります。ただし、造作の欠陥があらかじめ契約書に明記されている際は、売主側が責任を取る必要はありません。
造作に関して、契約内容で明確に定めておくことでトラブルは発生しにくくなります。そのため、契約書に記載された詳細な内容を双方がしっかりと確認しておくことが大切です。
・民法第636条 請負人の担保責任の制限
(参照元:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089)
設備を固定資産として計上するため
居抜き物件で譲渡された空調をはじめとする設備は、固定資産に計上します。固定資産はその種類に応じて耐用年数が定められているため、耐用年数の間に減価償却を行わなければなりません。
造作譲渡契約書は、固定資産計上の根拠を示すための重要な書類でもあります。造作譲渡契約書に記載された情報を基に、金額や耐用年数、償却金額を固定資産として計上し、決算時に減価償却を行いましょう。
造作譲渡契約書の項目内容
居抜き物件の契約に欠かせない造作譲渡契約書には、譲渡する造作物とその価格の一覧、支払い方法、支払い期日のほか、さまざまな項目に関する記載が求められます。買主が造作譲渡契約書の内容を細かくチェックするために、売主は「譲渡項目書」を作成します。
造作物ごとに、有償で譲渡される設備・無償で譲渡される設備・譲渡されない設備を確認することで、譲渡される契約となっていたはずの設備が譲渡されないなどのトラブルを回避するのに有用です。
また、オフィスの開設後、譲渡に直接関係のない物件オーナーに所有権が移っている造作物やリース品がある場合には、譲渡ではなく貸与となることも覚えておきましょう。
【項目内容】
・譲渡する造作物、金額、無償/有償などが記載されたリスト
・支払い方法
・支払い期日
・引き渡し期日
・支払いが遅延した場合の対処方法
・退去時の原状回復の有無や原状回復を求める範囲
・契約解除条件
・物件オーナーの承諾
造作譲渡契約時の注意点
造作譲渡契約書は、双方の合意に基づいて作成されます。そのため、内容や注意点は状況によって異なります。なお、通常の賃貸借契約では、設備のトラブルが次の借主に残されないよう、造作譲渡を禁止とするケースが一般的です。
造作譲渡契約を行うには、事前に物件オーナーの承諾を得なければなりません。以下に挙げるのは、造作譲渡契約時の一般的な注意点です。さまざまなリスクに備え、基本的な知識から身に付けておくとよいでしょう。
物件の管理者に承諾を得る
賃貸借契約では、契約解約時に原状回復を求めるケースがほとんどです。契約時・退去時には、原状回復に関する事項を必ず確認したうえで、疑問に感じる部分があれば解消しておくことが大切です。
居抜きで入居した場合であっても、退去時には、壁・床・天井などの内装をすべて排除したスケルトン返しが要求されることも珍しくありません。居抜きは賃貸借契約書の特例事項となるため、居抜き状態での退去を希望するのなら、契約時に物件管理者の承諾を得る必要があります。
居抜きでの退去に物件オーナーの同意が得られたら、造作譲渡契約書にその旨を記載します。また、賃貸借契約書で原状回復が求められている場合、早めに相談してどの程度まで原状回復が必要なのかも確認するようにしましょう。話し合いによる明確化は、トラブル回避に有効です。
造作物のリストに漏れがないようにする
譲渡する造作物のリストには、項目や数だけでなく、状態も漏れなく記載します。居抜き物件の場合、内見で確認した設備や内装がすべて譲渡されるとは限りません。引き渡しのあと、造作物だと認識していた設備が譲渡されないケースも考えられます。
設備の中には、リース契約期間の残っているものや、物件オーナーに所有権のあるものが含まれているかもしれません。造作物の内訳は、売主と買主の相違を防ぐ目的で作成します。劣化や傷の有無といった詳細な部分まで、書面から個々の状態をすべて把握できると安心です。
あらかじめリストを確認することにより、造作譲渡された設備が使い始めてすぐに故障するなど、予期せぬトラブルで水掛け論に発展する事態も回避できるでしょう。
不用品の処分負担を明確にする
造作物の中には、借主にとって不要なものが含まれている可能性もあります。そのため、不用品の処分にかかる費用をどちらが負担するかを明記することも大切です。たとえば、譲渡品のリストに「給湯設備一式」と書かれていた場合、譲渡される側にとっては一式の内訳が把握できません。
このように、リストの内容が大まかに記載されていると、契約の時点で不用品の有無に気がつくのは困難です。引き渡し後のトラブルを避けるためにも、不用品の有無を確認したうえで、どちらが処分するかを話し合っておきましょう。出された結論は契約書にしっかりと明記しておきます。
リース品があるか確認する
リース品は、造作の購入や物件の賃貸とは異なる処理が必要です。リース品を譲渡する際は、前の借主から新しい借主へ契約者を変更しなければなりません。正しい手続きが行われなかった場合、事業の継続に必要な設備であっても、リース会社に撤去される可能性もあります。
リース会社には、契約の引き継ぎか可能かどうかを事前に相談したうえで、承諾を得るようにしましょう。また、リース取引の種類によっては、税務上の処理を必要とするものもあります。
減価償却を行うためには、法定耐用年数や取得価額の確認が不可欠です。契約書にも、リース契約の変更内容に関する詳しい記録を残しておきます。
支払条項を明確にする
居抜き物件の造作譲渡契約では、支払い方法・支払い期限・契約解除条件など、支払いに関して明確に記載することが求められます。これらが条項で明らかにされていない場合、支払い状況の確認までに時間がかかり、スムーズに契約を進められません。
支払いが遅延した際の契約解除条件、キャンセルのしたときの違約金などは、単に話し合いで決めるだけでなく、決定事項をあとから確認できる文書にしておく必要があります。契約の重要な部分となる支払条項が契約書に明記されていれば、トラブルが発生するリスクを低減できるはずです。
居抜き物件に入居する際、造作譲渡契約をスムーズに結ぶコツは?
居抜き物件の内見に訪れる際は、どのように使いたいのか具体的にイメージして選ぶことが大切です。レイアウトを変更する必要があれば、相応のコストがかかるため、居抜きのメリットは半減してしまうかもしれません。
理想のオフィスを探すためには、1件でも多くの物件を見る必要があります。居抜き物件に強い不動産を活用すれば、選択肢は広がるでしょう。また、居抜き物件の契約に慣れた不動産であれば、造作譲渡契約に関する知識も豊富なため、スムーズに契約が進むはずです。
確認したことは書面に残す
前項で紹介したそれぞれの事項について、詳細な内容を契約書に記載することはとても重要です。契約は、売主と買主による意思表示の合致を目的とするため、口頭で話をまとめるだけでも成立します。
しかし、物件のオーナーや前の借主との信頼関係を構築するには、契約書の作成が不可欠です。契約締結の証拠を明示する目的でも、話し合いにより同意した事実を書面に残し、トラブルの予防に役立てましょう。
提示された金額が妥当でない場合は交渉可能
提示された譲渡価格について、値引き交渉をすることも可能です。居抜き物件では、現在の借主が退去日までに新しい入居者を決められなかった場合、物件の原状回復を行ってから退去する必要があります。
造作譲渡の価格は、造作物の劣化状態、継続してリース料を支払う必要のあるリース品の有無、不用品処分の負担など、造作譲渡の際に生じる負担額を考慮したうえで適切な値引き交渉を行えるとされています。
好立地にある人気の高い物件では、ほかにも借主が現れやすいため、価格交渉に応じてもらえない可能性もあるでしょう。無理な交渉はせず、お互いの要望を意識しながら適度な価格で契約をまとめられるのが理想的です。
居抜きオフィスをお探しならValue Officeへ
オフィスの移転・新設に居抜き物件を活用すれば、内装や設備にかかる費用を大きく抑えられます。居抜きオフィスを検討しているのであれば、Value Officeに問い合わせてみてはいかがでしょうか。居抜きオフィスの契約には、不動産契約とは異なる造作譲渡契約が不可欠です。
しかし、不動産会社の中には、造作譲渡契約の仲介を取り扱っていないところも存在します。Value Officeでは、人気の高いエリアで内装の充実したさまざまな居抜きオフィスを紹介しています。
まとめ
造作譲渡契約書は、居抜き物件契約時に前の借主と結ぶ契約内容を明記した書類です。居抜き契約で引き継ぐ造作物のリストやそれぞれの価格、設備の状態など、造作物の引き渡しに関する内容を明記することにより、トラブルが起こるリスクを低減できます。
また、支払い方法や支払い期日、解約条件などの細かい内容に関しても、口頭の確認だけでなく文書に残しておくことが大切です。造作譲渡契約書により、適切な譲渡内容を定めておけば、契約をスムーズに進められるでしょう。オフィスの最適化を考えているのなら、ぜひValue Officeに相談してみてください。